あづかり猫

あづかり猫の「ととこ」

飼い主にきくところ、メス猫のととこは88歳になるといふ。

今夏はもう寿命かな、と寂しい思いをしながらかかりつけの獣医
に診てもらう。自宅では点滴をつづけ、そのかいあって生き延びてくれたが、
この冬の時期、食欲がぱったりなくなり、水も飲まない。

どうしたもんかと思いつつ、なんとか、してあげたい。

僕は鍼灸師の免許を四十数年前に取得しているので、今回も
興味津々、真剣に遊び心をもって、ととこの治療を試みているが、
昨夜、ととこの寝床をのぞいてみると、茶碗に顔をつっこみ、
水を飲んでくれていた。

そして今朝の治療の後、食欲が出たのか、ムシャムシャと食事をしている。

かなり、効果があるようだ。
四つ足動物の診断、別に人間と一緒である。私の診立ては息診だ。

息診とは、どのような診断なのかは改めて書くことにするが、なんていう
ことはないんです。ととこの身体にゆっくりと呼気を通して、
呼気がからだの反応する箇所へ鍼を打つ。

僕の打ち方は、管を使わない捻鍼(ねんしん)法である。

僕は修業時代に、橋本先生からこの打ち方を習った。当時はゼロ番という毛鍼を使った。
鍼をさかさまに持つと、柳の枝のようにしなだれてしまうようは細い鍼である。

呼気が反応する箇所に、指尖(指先)を軽く接触し、その状態で
もう一度呼気をとおして、呼吸の反応を確かめ、打つのである。
この方法は、的確に当てることができる。

この診断によって、打つべき箇所が決まるのだが、
せいぜい、四箇所か五箇所くらいで、数分で終わる。
もちろん、症状疾患別に診ることもない。

そして、何よりも異常な部位に鍼を打つことはしない。
正常に反応してくれている箇所に鍼を打っているだけだということ。
この異常と正常の捉え方が、治療のポイントになる。