気づきへの発展

 

操体は、なぜ快適感覚を追求行動するのか  操体の臨床では、積極的に、きもちがよい、という生体感覚情報に従がっている。快適感覚と生体にフィードバックすることによって、からだのバランス制御が可能に成っているからである。

からだは、快適感覚に対して、最小エネルギーで最大の効果をもたらすように働きかけてくる。この働きかけは、からだが自らの力で治す、治してしまうということにほかならない、このように考えていくと、脳にもからだを、きもちよくさせてくれる中枢があるのではないか、それを証明する医学が、脳の快感のメカニズムを探求する脳内分子生理学であった。この脳の分子活動を研究する医学はここ30年~40年のことで、 私達が書店で手にすることができるようになったのはここ十数年前からのことである。 

では、脳のどこに、そのような快感をおこさせる神経と、その活動母体が存在するのであろうか。

脳の分子活動によれば、脳幹の無随神経、特に中脳にあるA10神経が、その中枢としての役割を果していることがわかってきた。このA10神経が刺激されると、ドーパミンとよばれるホルモン伝達物質 (神経伝達物質)が分泌され快感が生じてくることがわかってきたのであった。このドーパミンは、脳内覚醒物質で、脳を覚醒させて快感をさそい、創造性(人間らしさ)を発揮させる重要なホルモン伝達物質である。また特記すべきことは、このA10神経は、脳の要塞(ようさい)である精神系を通る唯一の神経であることだ。

ところで、この脳幹の無随神経はA系、B系、C系の各神経から構成されており、ドーパミンはA系神経のホルモン伝達物質として働き、特にドーパミンはA8神経からA16神経から分泌され、A10神経では多量に分泌される。そこで、このA10神経の別名を快感:快楽神経(ヘドニック・ナゴー)又は恍惚神経(オイホロニック・ナゴー)とも呼ばれている。

次に、この脳幹の無随神経とホルモンについて記すと、

・A系神経は左右対にA1~Aかつ16まであって、A1~A7で分泌される。
・C系神経は左右対にC1~C3まである。このC系神経は、驚きや、恐怖に関与するアドレナリンが 分泌される。

このドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンをカテコールアミンと呼ぶ。

・B系神経は、左右対にB1~B9まであり、その働きは、カテコール・アミンの覚醒ホルモンの過剰 分泌を抑制し、コントロールするのである。例えば、睡眠を誘い、活動を適度に制するのある。こ のB系神経から分泌されるホルモンがセロトニンである。 

A系神経と、そこから分泌されるホルモンの働きについて。  ドーパミンは、脳内の精神系のみに分泌され、特に「にA10神経で多量に分泌され、「人間精神の源泉」と呼ばれる。 

ノルアドレナリン(オキシド・ドーパミン)は、脳と共に交感神経から拡散的に広く分泌されるホルモンで「人間生命源泉」と呼ばれている。このホルモンはA1神経~A7神経と末梢の交感神経でホルモン伝達物質の活動母体となり、大脳、小脳、脊髄などの全ての脳にくまなく伸びるA系神経最大の無随神経であり、脳の最強力なる活動源となっている。例えば朝、ノルアドレナリンの分泌が始まることによって目覚め、昼、このノルアドレナリンの分泌によって活動し、夜はノルアドレナリンの減少によって眠る。

脳の精神系と、その回路について。 

A10神経は、脳幹の神経核からでて、まづ「欲の脳」と呼ばれる視床下部に入る。そこから「動物の脳」と呼ばれる「大脳辺縁系」に神経をのばす。ここには扁桃核があって、恐れや警戒を司る。次に「知の脳」と呼ばれる大脳新皮質に入ってゆく。ここでは、大脳新皮質のうち、側頭葉(ソクトウヨウ)の内側にある内窩皮質(ナイカヒシツ)は、人間にとって、A10神経が特別この側頭葉に密度濃く分布している、ことに注目したい。 

さらにA10神経は、海馬(カイバ)に側枝を伸ばし、脳の接続部分、インターフェースである大脳辺縁系の側坐核(ソクザカク)に神経をのばす。側坐核は行動、意欲をつかさどり、側坐核が破壊されると、生きる意欲を失う。 A10神経は、最後に前頭連合野(ゼントウレンゴウヤ)に至る。前頭連合野は、人間の精神活動にかかわる重要なところで「人間の創造力」を司っている。 

以上、簡単ながら整理してみた。A10神経が刺激され、ドーパミンが分泌されると、心とからだは、緊張から解放され、ゆったりとくつろいだ気分になる。又、気分が爽快となり充実し、安定した気持ちになる。これによって精神系も刺激をうけることになり、表情は心地よさを表現(尾状核:ビジョウカク)が刺激される)し、行動はおだやかに活気に満ち、(側坐核:ソクザカク、中隔核:チュウカクカクが刺激される)心は創造的に調和がとれてくる。(前頭葉:ゼントウヨウが刺激される)のである。

脳の快感、そのメカニズムを解き明かす脳内分子生理学が、私達の目に止まることのなかった頃、操体の臨床の中で、これらの現象を私達は体験していたのである。結果として得ていた情報であったから、理解しえたのである。 

脳の快感、そのメカニズムを理解していく内に、自律神経の存在が頭に浮かんできたのである。A系神経の説明のなかで、オキシド・ドーパミン(ノルアドレナリン)の存在 である。このホルモンがA1神経~A7神経と末梢の交感神経でホルモン伝達物質として働くと明記していることである。この自律神経が脳幹の無随神経、特にそのA系神経と継がっていることと、B系神経から分泌されているセロトニンの働きそのものが、副交感神経の働きと類似していると言うことだ。この自律神経のドグマといわれているのが胃と腸の消化管であり、さらに、この自律神経が第二の脳(外の脳)と呼ばれる皮膚と密接な関係にあることだ。 (皮膚が存在しなければ人間は生きていけない。それは脳が存在しなければならない、ことを意味する。) 

我々が注目している、運動系が皮膚を介して、自律神経の支配をうけていることは承知の事実である。外の脳と称する皮膚が有骨髄神経の快感、そのメカニズムを支配し、内なる脳(脳ー脳幹)が無随神経の快感、そのメカニズムを支配している、と言えるのではないか。  操体の臨床では、外の脳=皮膚を含めた運動系・そのボディーの歪みを正体に逆転するにあたって、快適感覚を快コース(歪整復の復元コース)に定めている。きもちのよさをとおす、その操体法の臨床はまさにダイレクト(ダイナミック)な問いかけではなかろうか。 

( 2003年1月3日)

2010年秋季東京操体フォーラム 打上にて